日本の国家「君が代」の歌詞にも登場する植物の「苔(こけ)」。
近年ではその苔の美しさや苔を愛でる文化そのものに関心を示す人が増えていることが話題に。外国人観光客だけでなく、苔ガールなる新手の女子も登場しているとのこと。
そもそも苔は薄暗く湿ったところに自生するあまり目立たない植物で、もみじ狩りやお花見といった同じ植物でも華やかさがなく観光映えしないのが特徴。
しかし、そんな苔に対して奥ゆかしさや風情などの魅力をわかる人が増えたことから、最近では苔に注目を当てたツアーや特集も組まれるほどになっています。
京都のように歴史のある神社や庭園などが多く存在している場所には、是非とも訪れたい苔の名所や、見るだけで平安時代の貴族のように「もののあはれ」や「わびさび」を感じるような美しい苔の庭園、更には自然の神秘や歴史の教科書には乗らないような隠されたエピソードが数多く存在しています。
今回は、そんな素晴らしい苔に出会える関西の有名観光地を厳選して、見所と一緒にまとめました。
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京都の苔の名所
西芳寺(西京区)
京都の西京区にある世界遺産にも認定された有名なお寺です。寺は1300年前の奈良時代の僧侶・行基によって開山。庭園は室町時代に作られたと言われています。
別名「苔寺(こけでら)」ともよばれ、その名のとおり日本美しいと言われる苔庭です。なお、庭園はもともとは枯山水であり、応仁の乱や災害などで荒れ果てた後、整備されなくなった庭園に苔が育成して現在のような美しい苔庭になったと言われています。
なお、拝観するには手紙で事前予約が必要で、写経などをしないと拝観はできないという厳しい決まりがあります。
ちなみに、アップルの創業者であるスティーブ・ジョブズがこっそりお忍びで訪れ「わびさび」を味わった寺という噂もあり、世界中から注目を浴びています。
高桐院(北区)
京都の北区紫野にある大徳寺の塔頭の一つ。
高桐院の苔の名所は入口の参道から、参道を進んだ先にある楓の庭。色鮮やかな楓と一緒に生えている苔を見るために多くの観光客が訪れています。
また、生えている苔もエダツヤゴケ・アカウロコゴケ・シラガゴケ(ホソバキオゴケ)の3種類の苔が生えており、それぞれの色を補い醸し出される空間が印象的です。
また、秋になるとアカウロコゴケの赤味が増し、庭にある紅葉も色づくことから紅葉狩りの名所としても知られています。
ちなみに、かの有名な映画監督のスピルバーグが高桐院の庭を見た際に感動したという逸話の残っています。
京都大原三千院(左京区)
永六輔さんのうた「女ひとり」で有名なお寺。天台宗の祖、最澄によって開かれたお寺です。
三千院には「有清園」と呼ばれるエダツヤゴケとウマスギゴケの主に2種類の色の違う苔庭が織り成す光景が有名です。
また三千院には「わらべ地蔵」と呼ばれるお地蔵さんも庭に点在しており、苔と地蔵の織り成すほんわかとした空間が女性から人気も得ています。
深泥池(北区)
深泥池(みどろがいけい、またはみぞろがいけ)は京都市北区にある心霊スポットや都市伝説、オカルトの場所としても有名な池です。
深泥池は10万年以上のその形を変えずに残しているため池で、別名「日本のガラパゴス」という名前もつくほど生物学的にも研究価値がある池として有名です。
そのため関西ではここでしか見れないハリミズゴケが生息していることで、コケの研究家の間では知られています。
なお、生態系や深泥池の環境保護のため池にゴミや生活排水を流さないなどの努力があって現在の深泥池が保存されているため、興味本位で池に入るのはNGです。
天龍寺(右京区)
京都の観光名所の嵐山にあるお寺です。室町時代に足利尊氏によって作られ京都五山のトップだったこともあるお寺です。
その天龍寺にある庭園「獅子吼の庭」には、緑のじゅうたんと呼ばれるオオシッポゴケに覆われた苔庭が広がっています。
とくに秋の時期は苔の緑路が深くなり、苔のじゅうたんに落ちた紅葉の姿に感動し、思わず息を飲んでしまうことでしょう。
法善寺 水掛不動尊(中央区)
小説家の織田作之助の作品「夫婦善哉」の舞台にもなった大阪の法善寺横丁にある水掛不動尊には、全身が苔で覆われた西向不動明王像があります。別名「水掛不動さん」と呼ばれることもあります
水掛不動尊は第二次世界大戦の大阪大空襲で焼け野原になった法善寺の跡地に偶然残っていたお不動さんにご利益があると信じられ、当時は貴重だった水をお供えがわりにかけたことが苔に覆われるようになったと言われています。
苔は葉っぱから水分や栄養分を吸収する性質があるため、土や木に限らずお地蔵さんのように石にも映えることができます。
水掛不動尊という名前にあるように水をかけることでお願い事が叶うという噂が広まり、参拝者によってかけられ続けた水が、奇しくも苔の生育に一役かったと考えられています。
水をかけることから水商売が繁盛する、恋愛が成就すると言われている、大阪の古き良き情緒が残る苔の名所です。
大台ヶ原山
大台ヶ原山は奈良県と三重県の県境にある山で、貴重な生態系を持つことから山全体が生物圏保護区に指定されています。
かつてのこの山には多数の苔が存在していましたが、伊勢湾台風のせいで木が流されてしまい、今まで木陰に隠れていた苔が減少してしまったという歴史があります。
苔は乾燥や日光に弱く、台風で木が倒されたり更地になってしまうと生育できないという環境の変化に弱い植物でもあるのです。
しかし、数は少ないですが大台ヶ原山の一部には、セイタカスギゴケという日光に強い珍しい種類のコケや倒木に生えるイボカタウロコゴケが生えています。
これらのコケが増え続ければ、かつての大台ヶ原山のように苔が生い茂った神秘的な環境が復活されると言われています。
苔は見るだけから使う時代へ
実は苔の持つ水分を吸収して膨らむ性質を活かし、紙おむつなどの給水材として使われていることもあります。
観光資源だけではなく、産業の資源としても苔への注目が集まっているとのことです。
また、今回の苔について興味を持った方は、福井県立大学の農学博士・大石善隆教授の書いた本を是非ともチェック!
きっと苔の魅力や面白さ、新たな発見やトリビアなどがあるかもしれませんね。
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